31)電子そろばん       99.10.16

  いまどき電卓をもらっても喜ぶ人はいないだろう。名刺サイズのソーラー電卓が1000円も出せば買える時代になったのだから、当然だ。この電卓の大きさと値段が経済面のニュースになったころがあったと言っても、現代っ子には信じられないかもしれない。

 20歳代の駆け出し記者で、家電などを担当していたころ。「いよいよ電子そろばん時代がやってくる」というような見出しで報道されたシャープ製の電卓、正確には電子式卓上計算機は、やや大きめの手帳の大きさくらいだった。当時としては画期的な小型電卓で、まさに「電子そろばん」なのだった。正確な値段は忘れたが、約10万円と記憶している。大ざっぱに言えば、ようやく1桁1万円程度の水準にまで下がり、価格面でも画期的な製品と言えた。

 そのあとは、もう滝を流れ落ちるごとく価格は下がり、性能も上がり、大きさもどんどん小型化が進んだ。価格はやがて1桁千円、1桁百円へと急降下していく。電池が不要で胸ポケットどころか、名刺入れにもスッポリ入ってしまう超小型電卓が1000円札1枚で買える。我も我もと電卓に進出していたメーカーも、これでは儲からないから次々に撤退してしまった。

 電子そろばんと言えば、もう時効だからいいと思うが、発表の少し前に当時シャープ社長の佐伯旭さんが自慢そうに「どうだ」と見せてくれたことがある。びっくりして眺めている私を、佐伯さんは「書いてもいいよ。ただし、いま流通している製品が売れなくなって出る損害を弁償してくれるんだったら」と、からかった。新製品を自慢したくてウズウズしていたのだろう。もちろん、信用して見せてくれたのだから、発表前には書けなかった。


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