5)倒産          97.1.30

 特ダネ競争の観点から言えば、倒産は経済記者にとって、その実力を試される願ってもないチャンスである。 しかし、敢えて「人間として」というキザな言葉で表現させてもらうなら、これほど憂鬱な取材はない。

 ある上場会社が危ないという情報が入って、数週間にわたって夜回りを敢行していたときのこと。弁護士筋 の感触では、明日にも会社更正法申請必至という状況で、幹部は証券取引法違反で逮捕は免れないという情勢 だった。  私が担当して張り番したのは、取締役経理部長宅。翌日には逮捕確実なのだから、帰宅するはずがないと思 ったが、玄関のベルを押したら、多分お母さんに言い含められたのだろう。小学校5ー6年生の女の子が出て きて「お父さんはまだ帰ってません」と、申しわけけなさそうに言う。「ああ、この子のお父さんは明日逮捕 されるのか」と思うと、次の言葉が出てこない。

 ある会社、やはり上場会社の場合は、昔の常識から言えば早めに「経営危機」の記事が出た。メーンバンク に押し掛けた記者たちを前に、広報担当の役員は「つぶす気か」と、すごい剣幕で噛みついた。立場を逆に考 えれば、気持ちはわかる。昔は倒産報道というと、不渡り2回が不文律の時代があった。しかし、それでは情 報を先に知りうる一部の債権者のみを利するということもあって、倒産報道は徐々に前倒しになっていった。

 倒産の取材はいつもうっとうしかった。


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