【モン・サン・ミシェル】 2002.1.10
 10日。この旅の目玉、年間200万人が訪れるという世界遺産「モン・サン・ミシェル(Mon St Michel)」に出かける日だ。9時15分、パリ・モンパルナス駅発のTGVでレンヌ(Renne)へ。列車の旅は約2時間半。降りてバス・ターミナルを探していたら、バス会社のガイドさんが「モン・サン・ミシェル?」と声をかけてくれ、駅の右手裏側にできている立派なターミナルへ案内してくれる。モン・サン・ミシェルに行くにはポントルソンという最寄りの鉄道駅もあるが、接続が悪いためレンヌからバスを利用するのが普通。バスで1時間10分。JR大阪駅を通るとき、旅行代理店の壁を飾っている、あのモン・サン・ミシェルの実物が目の前に現れた。

 高さ80mの小さな島に建てられた修道院。起源は8世紀に遡るそうだが、いまは道路が付いて観光地になっている。泊まるホテルは、門を入ってすぐのラ・メール・ド・プーラール(La Mere de Pourlar)。予約 した後で知ったのだが、モン・サン・ミシェル名物のオムレツの元祖として有名なプーラールおばさんのホテルだった。カウンターでチェック・インしていると、「シャカシャカ・シャッシャ」というリズムが聞こえてくる。電車の中でよく聞くウォークマンのイヤホンから漏れてくる、あのリズムだ。オムレツの卵を撹拌している音なのだ。赤いユニフォームを着た調理人がバカでかいボウルにたっぷり入れた卵を撹拌しているシーンに、思わずカメラのシャッターを切ってしまった。

 昼過ぎに着いて泊まるほど、この島の観光に時間がかかるわけではないが、世界遺産の中に泊まる機会が実現したのに、興奮を覚える。閑散期のこと。いつもはごったがえすという島はひっそりとしていて、往年の修道院に思いを馳せるにはピッタリの雰囲気だった。アップダウンがきつくて狭い路地から路地を、隅から隅まで歩き回った。同じ所を何度も歩いた。

 いったん外に出て島全体をもう一度、目におさめ、ホテルに戻ろうとしたとき、事件は起こった。門の前の大砲の側を通りかかったとき、若い青年が紙切れを持って、何やら言いながら近づいてきた。間髪を入れず、2人組の黒いレザー・コートを着た男が現れて「ポリスだ」と言う。一瞬、ガイドブックなどで見る詐欺の手口が頭に浮かぶ。「Really?」とにらみつける私に、IDらしいものを示して「パスポートを見せろ。コカインが・・・」と言いながら、口に手を当て「騒ぐな」という仕草を見せる。パスポートの次は「財布を見せろ」ときたので、再び「本物のポリスか?」と大きな声で聞くと、別の一人が近づいてIDらしいものを示す。気のせいか、酒の臭いがする。ますます怪しい。しつこく「本物のポリスか?」と警戒する私から標的を妻に変え、バッグの中身を調べ始めた。その間、一人がなんだかんだと私に話しかけ、妻への助け船をブロックした。「OK」で解放されると、3人が一緒に島の外へ出ていくのを見て、妻に「財布の中身は大丈夫か?」と聞くと「クレジット・カードがない」。見事にやられていたのである。幸い私のカードは無事だった。

 泊まっているホテルは目の前だからホテルに戻り、フロントにいたマネージャーらしい男性に「カードを盗られた」と知らせると、すぐに現地カード会社の日本語を話せる担当者に電話してくれ、無効の手続きができた。若い「本物」の警官が2人来てくれたが、島の立地から見て恐らく被害は発生しないだろうということで、特に届けはしないことにし、握手で別れた。ホテルのマネージャーの手際のよさに助けられ、妻は最敬礼。このマネージャー氏。電話中にチョコレートを勧めてくれるなど、冷静沈着。時々こんな事件があるのかと思ったら「ここでは初めて」という。「はるばる日本からやってきた私たちにフランス人が不愉快な目に遭わせてしまって申し訳ない」とまで言ってくれた。

 今回被害に遭った手口は詐欺の典型的なもので、話には聞いていたものの、いざ自分が遭遇してみると、どうにもならないことを示してくれた。あとになってみると、「すぐに逃げ出せばよかった」などと、あれこれ反省してみるが、「もっと英語を話せたら、何とかなったのではないか」という思いもした。この夜は、25ユーロ(約3000円)もする特製オムレツに、普段は飲まないようなボルドーの白ワインを注文して、散財した。世話になったマネージャー氏への感謝の意味も込めて・・・。 inserted by FC2 system