米国流通業のニューウェーブ(6)『気配り』で売る
−−合理化の影に温かみ−−
−−“急行レジ”まで設置−−

1983.12.19 毎日新聞

 「pソコン・ショピング」「オフプライス・リテーラー」「未来店舗」「グルメショップ」「コスト・カッターズ」と、5回にわたって、米国の流通界に起きている“新しい波”を紹介した。そこでは、いかにして店舗運営を効率化するか、メーカー価格への挑戦を、どのように展開するか、質の確保と周囲の他店との“差”を、どうやって消費者に訴えていくか−−などについて、いかにもアメリカらしい手法に出会った。盛り上がりを見せる、米国の消費景気の中で、こうした流通業界の創意と工夫が、また新たな消費意欲を掘り起こし、既存の流通システムをダイナミックに変革している姿は、日本の流通業の低迷する現状を打破するヒントになるものが多かった。
 だが、新しいものへの挑戦は、なにも効率化やコストのダウンばかりではない。反対に“気配り”精神を前面に打ち出して成功しているグループもある。最後に、その具体例を紹介してみよう。
 テキサス州のダラスを訪れたのは、ちょうど日曜日だった。ダウンタウンには人影はほとんどなく、商店で開いているのは、食品スーパーか、コンビニエンス・ストアぐらいのもの。日用雑貨などを置いているスーパーでは、食品売り場以外のコーナーは鎖で囲いがしてある。それに、ビール、ワインなど軽いアルコール飲料類の販売も、日曜日は午後からと規制されている。テキサスは、植民地時代からの名残である禁酒法、日曜労働禁止法などいわゆる“ブルーロー”がいまも比較的、厳格に守られている州のように思えた。
 それだけに、日曜日も開いているコンビニエンス・ストアでは、ただ商品を並べるのではなく、細かい気配りがいくつも目についた。同州ヒューストンに本拠を置くナショナル・コンビニエンス・ストアズの“STOP N GO”=写真上=。セルフ・サービスのガソリン・スタンドを併設しており、店舗面積はせいぜい500平方メートル。青果物、飲料、菓子など食品のほか電気製品、文房具、モーター・オイル、塗料、台所用品、レコード、雑誌類まで所せましと並べられていた。そこのコンビニエンス・ストアらしい気配りは、やはり食品関係だ。例えば、 “ホット・ストップ”コーナー。電子レンジ=写真下(注)=が6台設けてあって、客はハンバーガーやサンドイッチの半製品をレンジに入れてホットなハンバーガーなどが出来上がるという仕組み。ジュースも瓶詰とは別にミキサーが数台置かれてあって、好きな種類の新鮮なジュースを好きな量だけセルフ・サービスする。サラダもパックで売るのでなく、自分の好みの組み合わせで選び、自分で支払うシステムだ。
 合理化の象徴のようなコンビニエンス・ストアで、こうした気配りがみられるのは、考えようによっては不思議な現象。商品とは直接関係のないことだが、日本ではあまりお目にかかれない光景として、こんなケースもあった。やはり、ダラスのクローガーで、ズラリ並んだレジの端の二つが“エキスプレス・レーン”として区別されており、買い物が9品目以下の人の専用になっていた。週1回、まとめて大量に買い物をする米国のスーパーでは、店内で使うキャリアも日本のスーパーとは比較にならないほど大きい。日本人ほどせっかちでもないのに、ちゃんと買い物点数の少ない人向けに“急行レジ”を設けているわけだ。
 日曜日のダラスで強い印象を受けたが、ニューヨークやサンフランシスコのダウンタウンでも、そうした光景に何度も出くわした。
 価格競争では激しい闘志を露骨に示す一方で、さりげない気配りを示す。これもまた、米国流通業に生きている原点なのかもしれない。 (おわり) =中出眞澄記者

【注】写真上は、新聞紙面からのコピーなので、不鮮明です。 写真下は原典には掲載されていません。 inserted by FC2 system