米国流通業のニューウェーブ(5)「コスト・カッターズ」
−−価格破壊いまも健在−−
−−消費者に露骨に示す−−

1983.12.12 毎日新聞

 テキサス州ダラス郊外のアーリントンにあるスーパー、クローガー。店内に一歩入ると、思わずドキッとさせられるのが、天井からいくつもぶら下げられた大きなハサミ=写真(注)=。そしてハサミには色鮮やかに「コスト・カッターズ」(コスト切り下げ)と大書されている。
 まだある。レジに並ぶ客の頭上に掲げられた看板。見出しは「トリプル・ザ・ディファレンス」(差額の3倍を返金します)。ショッキングな見出しにつられて本文を読み進むと「あなたの町にある他のスーパーで、クローガーより安い値段で常時、食料品が買える場合、クローガーはその差額の3倍を現金で支払うことを約束します。(略)クローガーのレジスター・テープと、他の店の値札を持ってきて下さい。さあ、あなたの町で、あなた自身のために、安い価格を探しましょう」と呼びかけている。
 クローガーほど派手なやり方ではないが、ニューヨークのグランド・ユニオンでも、同じような「安売り哲学」を見た。同店では毎週、9000を超える扱い商品の価格を網らしたリストを無料で発行している。全体で25ページ。英語の辞書のような小さな字でビッシリと品名、価格が印刷されている。消費者は、このリストを持って他のスーパーに行き、値段を比較しやすいようにと、わざわざコストをかけて発行しているのだ。このリストの冒頭で消費者にこう呼びかけている。「他の安売り店が通常の価格を下げれば、グランド・ユニオンはすぐ、その価格に合わせて値下げを断行します。さらにまた値下げされたら、グランド・ユニオンも下げます」。「このリストの価格を他店と比較して、もしグランド・ユニオンの価格が同じか安くないときは店長に知らせて下さい」と積極的な情報提供を要請している。
 価格ではなく品質で思い切ったキャンペーンを展開するスーパーもある。ニューヨークで106店舗を持つウォールドバームス。S・ズッカーマン副社長によると、同社のウタイ文句は「品質の良い店、きれいな店、生鮮品に強い店」だそうだが、そのドッキリ戦略は同社が力を入れているPB(自社ブランド)商品がらみのもの。年間20億円の宣伝費の60%を向けるというチラシ広告で同社は、PBと並列にナショナル・ブランド(NB=メーカーブランド)商品もPRする。もちろんPB商品を売るのが目的なのだが、チラシでは「ウォルドバームスの挑戦を受けて欲しい」と呼びかけ「もし、あなたが我々のPB商品を気に入ってもらえない時は、中身を半分残して持ってきてもらえば、同等のNB商品を無料で進呈しましょう」と、思い切った訴えを行っている。
 紹介した三つの例は、パターンこそ異なるが、スーパーの先輩国アメリカで、その原点がいまも目に見える形で生きていることを示しているのではなかろうか。クローガーの「コスト・カッターズ」と書かれたハサミなど最たるもの。仕草がオーバーなアメリカ人らしさが出ているだけとの見方もできるかもしれないが、コスト・カッターズから連想する「価格破壊」という言葉は、日本ではスーパーの草創期に勇ましく聞かされたものだ。「ごく一部の目玉商品は別にして、スーパーは決して安くない」とささやかれる昨今、消費者が「なるほど」とうなるような「真の安売り哲学」がもっと露骨に示されてもよいように思う。 (つづく)

【注】原典はモノクロですが、新聞紙面のコピーでは不鮮明なため、ホームページでは同カットのカラーを使っております。 inserted by FC2 system