米国流通業のニューウェーブ(2)
「オフ・プライス・リテーラー」
−ブランド品を安売り,百貨店と訴訟ざたも−

1983.11.21 毎日新聞

 ニューヨークのブルックリンにある子供服のオフ・プライス・リテーラー(一流ブランド商品の安売り店)キッズ・アール・アス=写真左、右はトイズ・アール・アス(注)=を訪ねた。だだっ広い駐車場で車を降り、まず店舗の全景をカメラにおさめていると、まるで西部劇に出てくるシェリフのようなガードマンが飛んできて「何者だ」と、大変なけんまく。予約なしの取材だったため、身分を名乗り「店内も撮影させて欲しい」と申し入れたが「ここの社長が来てもとらせない」とノーの一点張り。さすが安売りをめぐって民事訴訟を抱えているだけのことはあると、その神経質ぶりに感心した。
 訴訟というのは、同社の親会社であるトイズ・アール・アスが、ワニのワンポイント・マークで有名なアイゾッド社とフェデレーテッド百貨店を相手に「不公正な取引により損害を受けた」として、2千9百万ドル余(約70億円)の賠償を求めたもの。トイズ・アール・アスは、全米に百店舗を超える、おもちゃのスーパーマーケットを展開している大チェーンで、子会社のキッズ・アール・アスは「最高品質のブランドもの子供服を安売りする」のを目的に最近発足した。その第1弾が、ブルックリン店と、ニュージャージー州のパラマス店。いずれも7月にオープンしたのだが、さっそく安売りを嫌うメーカーと百貨店の妨害工作に出会ったわけだ。
 訴状によると、ワニのマークのアイゾッド社は「小売業者は少なくとも仕入れ価格の倍以上の小売価格で売ること」という厳しい価格政策をとっており、従わない店には商品を流さないと発表。トイズ・アール・アスのやはり子会社であるインターステート百貨店への商品供給も「キッズ・アール・アスに流れる恐れがある」としてストップしたという。また、フェデレーテッド百貨店は他の百貨店に「安売り店に流しているメーカーからは買わないように」と呼びかけ、納入業者にも圧力をかけた、としている。
 問題のブルックリン店をのぞいてみると、なるほど安い。例えばリーバイズのジーンズが定価23ドル50セントに対し、約3割安の16ドル97セント。値札表には両方の価格がハッキリと記されている。もめごとのもとになったワニのマークもまだあった。12歳児向けのプルオーバー・セーターの値段は16ドル97セント、定価4ドルに対し、やはり3割安。しかし、売り場でワニのマークを探し出してくれた若い女性店員は「開店したときはワニのワンポイント商品はもっと豊富にあったのに、いまは探さないとみつからない。損害賠償もいいけど、できれば商品が入るようになって欲しいわね」と、根が陽気な米国女性らしくニッコリ笑った。
 米国では、このところ子供服に限らずオフ・プライス・リテーラーが大変な勢いでふえている。ある調査によると、オフ・プライス・リテーラーは全国に4千7百店以上もあるという。また、その増加傾向は続き、90年代には小売業の中で最高20%のシェアを占めそうだとはじいている。トイズ・アール・アスに訴えられているフェデレートでさえ、子供服のオフ・プライス・チェーンであるチルドレンズ・プレイスを買収したほどで、大手百貨店自らオフ・プライス分野に進出する動きが活発になる一方、訴訟ざたも起こっているわけだ。(つづく)

写真は原版がなく、新聞からのコピーでは不鮮明なため、筆者が撮影した別のカットのものです。立っているのは筆者。 inserted by FC2 system