米国流通業のニュー・ウェーブ(1)
「パソコン・ショッピング」
−−キー一つで商品出前−−

1983.11.14 毎日新聞より

 米国の小売業界が好調をオウ歌している。大手業者の売上高は、このところ毎月、前年同月比2ケタ増で推移しており、米国最大の総合小売業、シアーズ・ローバックによれば「1977年以来のバランスのとれた売れ行き」という。景気の回復、物価の落ち着き、減税による可処分所得の増加などが背景になっているが、その裏で見逃せないのは、多様化し変化する消費者ニーズへの業界の対応ぶり。好況の中でも激しい競争に生き残るには、絶えず変化を求められるのが、米国の流通業界だ。「毎日新聞ミドル・マネジメント・セミナー」に同行、現地視察したのを機に、米国流通業のニューウェーブ(新しい波)を追ってみた。 (中出眞澄記者)

 「ホーム・コンピューターの前に座ってキーボードをたたけば、その日のうちに注文した商品が宅配されてくる。そんなあなたを想像してください。幻想でもなんでもないのです」−−。
 サンフランシスコ・エグザミナー紙がこんな書き出しで紹介した、食料雑貨のデリバリー・オンリー(出前専門)スーパーマーケット「グローサリー・エクスプレス社」は、サンフランシスコのダウンタウンのはずれにあった。裏さびしいエバンス通りに面した古ぼけた元倉庫が本社兼デリバリー(配送)センターだ。米国のスーパーマーケットにつきものの大駐車場はもちろん、看板さえ見当たらない。
  「お客さんに来てもらう必要がないから、これでいいのさ。立派な店舗も備品もいらないし」と陽気に語るのは、財務担当のM・ミーガー氏(写真)。同氏は2年前の夏、J・コフラン氏(営業担当)と2人でグローサリー・エクスプレスを創業した。スタンフォード大出身で大手銀行マンの経歴を持つミーガー氏とハーバード大を卒業、経営コンサルタントをやっていたコフラン氏の呼吸はピッタリ。「他の地域では資金不足や品不足で失敗した“出前専門店”があるが、われわれの計画は綿密、慎重だ」と自慢する。
 同社の現行システムを説明すると−−。配達時間は月〜金曜の週日の場合、午前8時から午後10時までで、2時間ずつ、つまり7つの時間帯に区切られている。正午までの配達を希望するなら、注文は前日の午後1時半までだが、午後なら同じ日の3時間前に電話で注文すればよい。約3千人の固定客には、週刊誌大85ページの厚さで6千品目にのぼる食料雑貨の登録ナンバーや価格が記載されたカタログが配布されている。盲人用に音のテープカタログもある。
 ミーガー氏によると「サンフランシスコでは車を持っていない人が意外に多く、共働きで買い物の暇のない人や体の不自由な人もかなりある。そうでなくとも、ちょっとした買い物にも15〜20分は待たされる」と、出前専門店に目をつけた理由を語る。現在、電話による注文を受け付けるオペレーターは時間帯によって異なり、2〜7人。平均1日の注文は110件で、1人当たりの受け付けは1時間当たり5件。1件につき平均60ドル(約1万4千円)で、年商は約200万ドル(約5億円)。「これでは、まだまだ十分ではない。来年には倍にしたいし、1986年には拠点を四つにまで増やしたい」という。
 そのためにも、来年1月スタートをメドに注文システムが大幅に効率化できるパソコン・ショッピングに挑戦している。現在、コンピューター関係の専門会社と契約して新システムを開発中。完成すれば同時に15人の客からの注文を受け付けられるし、オペレーターのいない時にも受注が可能になる。「24時間受注体制」が実現するという。しかも、キー入力は顧客がやってくれるので電話注文のように改めて本社のコンピューターにデータを入力する必要がないし、カタログにない、その日の特売品なども顧客の側のコンピューター・ディスプレーに流すこともできるなど、メリットはいくつもある。
 固定客へのアンケートで調べたところ、パソコンの利用を希望する顧客は全体の5%。「スタートは150軒ぐらい」と、ミーガー氏。新年に思いをはせている。  (つづく) inserted by FC2 system