農水産業レポート「米国の食品スーパー」

1983.12.22 毎日新聞
 このほど毎日新聞と萬年社が企画した「訪米流通事情調査団」に同行、10日間にわたって、ニューヨーク、ワシントン、ダラス、それにサンフランシスコ各都市のスーパーマーケットを見て回った。盛り上がる消費の裏で、激しい生き残り競争を繰り広げている米国流通業の新しい波を探るのが目的だが、視察団が主に食料品中心のスーパーだったことから、日ごろ日本のスーパーで買い物をしている目からは珍しい光景や戦略がいくつも目についた。

   米国の流通業界を専門に調査・コンサルティング活動を行っている西村哲アーマ・ジャパン社長(成城大学講師)によると「米国のスーパーマーケットでは、青果はそのスーパー全体の品ぞろえを判断するショーケースといわれている」という。加えて、アメリカ人は「青果を手でさわって、その色つやを直接自分の目で確かめて買う習性を持っている」 そうで、全米各地で意外に思ったのは、青果など生鮮食料品は押しつけのパックでなく、バラ売りできるような陳列法が競って採り入れられていることだった。
 何でもフィルムでパックしてしまい合理化するのがスーパーマーケットの手法だとばかり思い込んでいたのだが、まるで逆なのだ。“バルク・フード”と呼ばれる、この方式。ただバラで商品を並べるのでなく、一つ一つ丁寧にピカピカに磨き上げたうえ、きれいに積み上げている店もあった。バージニア州マックリーンにあるグルメ・サムプレース・スペシャル=写真=では、中南米系の店員がリンゴを芸術のように積み上げて得意気にポーズをとって>BR>  実は、このバルク・フードをめぐっては、いろんな議論がある。
 ことしの春、ロサンゼルスのセプルベダ通りに、3時間前に電話注文しておけば車を降りずに2分で買い物ができる“ホン・イン・ドライブ・スルー・マーケット”が開店したが、「トマトやリンゴを手でさわってみずに買う客があるだろうか」との疑問が出された。これに対するダン・モーリス同社副社長の回答がふるっている。「消費者が自分の指で押さえてみることができないトマトを買うのを嫌がるのはたしかだ。しかし、だれも押さえたことのないトマトを好むのも、また真実では」と。
 FDA(米食品医薬品局)も、このバルク・フードを衛生管理と犯罪防止の両面から問題視しており、ルールづくりに乗り出す構えをみせている。洗ったり料理したりするにしても、いろんな人が裸の食料品に直接手で触れるのは衛生上、問題だし、毒物を混入したりする犯罪を防ぎにくいとみているわけだ。グルメ・サムプレース・スペシャルでは、コーヒー豆のセルフ・コーナーに専門の知識を持ったコンサルタントとして店員を一人配置、いたずらを防ぐことにしたそうだが、広い青果物広場に常時、監視のための人を配置するのは、コスト面から大変。FDAの出方によっては、ひと騒ぎ起こりそうな雲行きだ。
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 バルク・フードと並んで興味を持ったのは、青果物の単品をテーマに新聞とテレビを連動させた徹底的なコマーシャルを展開するスーパーマーケットがあったことだ。
 このスーパーマーケットは、ニューヨークで百数店舗を展開しているウォルドバームス。S・ズッカーマン副社長によると、同社の顧客にはイタリア人やユダヤ人が多く、品質のよい青果物が要求されるため「生鮮品に特に力を入れている」という。
 同社がことし5月から始めたPR作戦はこうだ。第1号はトウモロコシ。まず新聞の折り込みチラシを出すが、1面を全部使った色刷りのトウモロコシの大きなグラビア絵。このあと、テレビで30秒スポットを71回も流す。対象世帯は2300万。テーマ音楽に続いて「ウォルドバームスは、自然に生まれた大変おいしいトウモロコシを提供します」とアナウンス。画面は掛け値なしに「おいしそうだな」と感じさせるから心にくい。もちろん、値段も大きな文字で出る。
 トウモロコシの次はモモ、メロン、ブドウとPRを続けるが、ある一定期間を1品目だけ集中PRするのだから宣伝効果は大きい。しかもテレビCMは品目が変わっても、同じ音楽、同じ声、同じセリフで通しているので、出だしだけでウォルドバームスのCMとわかり「今週は何をやっているのかな」と視聴者を引きつけてしまう。つまり単品のPRをやりながら広告の効果も発揮させているわけだ。
 ズッカーマン副社長は「本当においしかった。もっと値段を高くしてもいいのでは、という手紙をもらったり、いまから買いに駆けつけるところだと電話が入ったり、このPR作戦の成果は上々だ」とご機嫌だが、成功のポイントは青果物を対象に選んだこと、それも単品の集中PRという手法をとり、印刷媒体と電波媒体を完全に連動させたところにあるようだ。 inserted by FC2 system