悩む西ドイツ−−裏と表(2)
−QC頼み、「末端」の自覚を期待−

1981.6.12 毎日新聞より

 「祝祭日、個人的な休暇、病気などを全部加えると欠勤率は自動車工業の平均で実に22%。毎日、5人に1人は休んでいる勘定だ。この分のコストアップは車1台当たり1500マルク(約15万円)にもなる」−−。ケルン・ドイツ駅を真下に見下ろすドイツ・フォード本社ビルの一室で、労務担当重役のH・J・レーマン氏は渋い表情でこう語った。同時に「こんなことはドイツでは、ごく普通のことなんだ」とも付け加えた。
 しかし「普通のこと」と手をこまぬいていては競争に負けてしまうのが、企業の世界だ。現に、最近では日本車の西ドイツでのシェア(新規登録分)は10%をこえ、さらに対米輸出自主規制のあおりに伴い、今後西ドイツへの日本車ラッ シュを心配する声が満ちている。ドイツ・フォードは昨年11月、近年、日本のお家芸のようになっているQCサークルの導入に踏み切った。国際市場での競争に打ち勝たねば、という圧力が背景になっているのはもちろんだが「経営者だけでなく従業員にも何かやらせる末端の労働者の潜在力を引き出す」のが、大きなねらいだったという。
 レーマン氏ら同社幹部は昨年10月、日本を訪れてトヨタ、日産、本田、三菱など大手自動車メーカーの工場を見学、QC運動の実際をその目でたしかめてきた。いまや日本のQCといえば、従業員の自発的なグループ活動によって展開する、その普及ぶりと効果が、海外から奇異の目でみられている。是非ともそのノウハウを導入したかったのだ。
 しかし、同社がQCサークルを導入するにあたっては労使で構成する経営審議会や従業員の間に、少なからず不信感があって「人を減らして生産効率を上げるのがねらいではないか」との心配があったからだ。レーマン氏は「QCサークルの手法は日本でのやり方をできるだけ有効に取り入れるように努力したが、従業員の間に生じる誤解を解くためには気をつかった」という。とかく、運命共同体的意識を利用して、賃金面などで従業員にガマンを強いる日本的な経営の厳しさを持ち込むと思われても困るし、サークル活動が就業時間外となって個人生活に食い込んだりするとなれば、それは「非ドイツ的」の一言で拒否される心配があった。
 というわけで、実際に導入されたQCは、かなりドイツ人向けにアレンジした“修正版QC”の色合いが濃い。同社は、まず手はじめにケルン市などにある5工場(従業員5万5千人)で、小さいQCグループをテスト・ケースとして作り、不信感を取り除くことから手をつけている。そして11月から一斉にスタートさせ、現在結成されたサークルは約400。教育担当のH・ウェルツェル氏は「まだ1回目の結論は出ていないが、かなりポジティブ(確か)な効果が認められる。しかし、日本のようになるには、まだまだ」と語る。
 「QCに関して」と題した同社の社内資料には「QCとは自主的な集まりの中で従業員が共通の結束した行動をとる」「創造性と各個人の参加を促進する」「従業員の職業意識と意欲を促進する」「グループ意識および責任感の強化をはかる」などの文句が並んでいる。日本人の目からみれば、いまさらQCをやらなくても「当然のこと」といえそうな項目ばかり。しかし、個人の権利意識の強いドイツ人にとっては、これでも大変な項目ばかりらしいのだ。
 日本的QCと異なるのは、まず主導権を取るのは幹部であり、各QCグループには専門知識のあるリーダーを配置していることだ。そして活動(会合)は「就業時間中に原則として60分、月1回行い、例外的には有給の追加勤務を要求する」となっている点だ。つまり、QC活動そのもは報酬とリンクされてしまった。
 レーマン氏は、QC導入にあたって勘案しなければならない日独の風土のちがいを「日本人は平均的に教育程度が高い。それに外国人労働者の問題もない。ただ、どうして日本人がよく働き、ドイツ人が働かなくなったかと問われると、それを解明するのは簡単なことではない」と話している。ハッキリ言えることは、日本でのQC運動、とくに銀行などサービス業で広まりつつあるQC運動が“効率向上”に焦点を絞っているのに対し、ドイツ・フォード社は「QCサークル導入で最もポイントを置いたのは、最末端の従業員も含めて品質への自覚を持ってもらうことだった」(レーマン氏)ということだ。ドイツでは最近、QCサークルをテーマにした講習会が盛んに開かれている。同氏も「向こう2年間ぐらいの間に関心はぐんと高まるだろう」と話しているが、日本顔負けのQCサークルが定着したとき、それは西独経済が立ち直った時といえるかもしれない。  (中出眞澄記者) =つづく

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